2009年10月25日J.GARDENにて発刊しました同人誌のキャラクター設定と冒頭部分です。
   ほんの少しですが、よかったら読んでやってください。



<主な登場人物>

秋山 覚(あきやま さとる)16歳(高校1年生) キレイな顔立ちで全校生徒から密かに注目されているのに、それをまったく気にかけていない 少年。 真っ黒な髪と飴玉のような茶の瞳。空手3段の腕前。 性格は真っ直ぐで好きなひと以外とは付き合わない、もし好きなひとにふられても、代わりに 別の誰かと付き合う、などという考えをカケラも持っていない。素直で、だがそれは自分の 考えに正直であって、その分相当な頑固者。 幼なじみの乾明人のことが好きで告白をするのだが、失恋してしまう。
乾 明人(いぬい あきひと)16歳(高校1年生) 覚とは幼なじみ。家も50メートルも離れていない場所にある。 中学時代は陸上部に所属、高校に入ってからは園芸部に(活動はほとんどしていない)。 性格は明るくクラスの人気者。 恋愛に関して多少の興味や憧れを持っているものの、女子とデートするより男子の 友人と遊んでいる方が楽しいという、お子様な部分も。 覚に告白とキスをされて、その場では断るのにそれ以来彼のことが気になってしまい、 そんな自分に自己嫌悪を抱くことも…。
伊吹 博生(いぶき ひろお)18歳(高校3年生) 明人が所属する園芸部の部長。清楚でやわらかな微笑みをいつも浮かべている。 冷静で世間をよく見ているが、臆病な面も。 幼なじみに高木顕章と飛高京吾がいて、飛高のことが好きなのだが同性を好きに なったことを認めるのが怖くて、自分の想いを封印しようとしている。
飛高 京吾(ひだか きょうご)17歳(高校3年生) 歌が好きで、バンドを組み、定期的にライブをおこなっている。熱烈なファンがいる。 大輪の薔薇のような、と比喩される、派手でひと目見たら忘れられないほどの美貌の持ち主。 博生のことが子供の頃から好きで、一度だけ肌を重ねたことがある。その後に拒絶を されたものの、未だに想いを捨てきれていない。 覚のことを気に入っていて、何かとちょっかいをかけてくる。
高木 顕彰(たかぎ けんしょう)18歳(高校3年生) 博生、京吾の幼なじみ。 ふたりが互いに恋愛感情を抱いていることを知り、内心どう接していいのか困惑している。 夏までバスケ部に所属していて、背が高くてがっしりしている。 頼もしい友人だが、常識的でもある。


 指に触れて、そっと笑って



 好きだ、と。
 まるで吐息が震えるような、微かな声。
 友達としての好き。
 恋愛としての好き。
 肉親として、尊敬として、憧れとして、好き、はたくさんある。
 自分が明人に抱く『好き』は恋愛としてだった。
 でも彼は、友達としての『好き』しか持っていないに違いない。
 小学生からの親友で、誰より近しい存在だったとしても、……いや、だからこそ、余計に友情以上の気持ちを持ってくれるなんて、なおさらありえないだろうと覚は思う。
 唇が接着剤で塞がれてしまったようにぴくりとも動けない明人に、覚は髪をかきあげるふりをして視線を逸らした。
 きっと必死になって覚の言葉の意味を平穏な方向に解釈したがっている。
 明人の頬が、緊張のためか微かに震えているのを見て、なんだか笑いたくなる。絶望を感じて。  この想いを告げるつもりはなかった。ずっと心に秘めて、一生友人として明人の隣にいるつもりだったが、言ってしまったのだからもう後戻りはできない。
 あとは相手に委ねるだけだ。
――――聞かなくても、答えは分かっているけれど。
 投げやりではなく、事実を確認するように、覚はそう思った。
 自分だって分かっている。受け入れてもらえるのではないか、なんて願うほどおめでたくはない。男を好きになって、そうそう都合のいい展開なんて、思い描くことすらできない。
 口を噤んだまま、覚は視線を上げ、明人を見つめた。
 こんなふうに気持ちを込めて見つめるなんて、もう一生できないから。
 だから、この一瞬だけは、許してほしかった。
「……俺」
 明人の掠れた声。
 一生懸命考えてくれている。視線は逸らしたままだけど、きっとどう言えば覚を傷つけずにすむか、を。
 無駄なことなのに。どうしたって傷つかずにはいられない返答でしかないのに。
「俺、そういうふうに考えたこと、ない。おまえのこと……」
「うん」
「だから、その……」
 悪い、と。明人は小さな声でそう言った。
 思っていたとおりの返事。
 逃げられる、嫌悪の瞳で見られる、というシナリオだって頭の中にあった。それから比べれば、この返事は雲泥の差。少なくとも相手は自分のことを懸命に考えてくれたのだ。
 悪くなんてない。明人が謝らなければならないことなんて、ひとつも。
 でも―――だけど、苦しい。分かっていたのに、それでも苦しくて仕方がない。
「……うん、分かった」
 けれど覚は頷き、そう言った。言いながら微笑む。だってそれしかできないから。泣くなんて、絶対に、自分に許さない。
 視線を外していた明人が、ようやく覚を見る。
 一瞬交わった視線に、しかし明人はもう一度微かに目を伏せた。
 ズキズキする。
 痛みが、覚の唇を押し開けた。
「明日にはもとに戻る。今だけだから。……これまでと同じように、友達づきあい、してくれる?」
「そりゃ」
 友達、やめる気はない、とそう告げる明人に、覚は笑みを浮かべた。
ホッとして、なのにやっぱり胸が痛かった。
 痛くて……唇が、震える。
 微かに目を見開く明人に歩み寄った。
 心なしか身体を引く相手に、
「キス」
「……ぇ?」
「欲しい。一回だけ、させてほしい」
 明人は自分とほとんど同じ高さにある顔を、呆然としたように見つめる。
「キ……、て、…え……」
 混乱したように言葉を詰まらせる明人に、覚はもう一歩近付いた。
 明人の身体が強張るのを感じる。それでも覚は歩みを止められなかった。
 カツン、と後ろにあった机に、明人がぶつかった。
「ダメか?」
 明人は明らかに逃げ腰だ。けれどすんでのところで逃げずにいてくれているのは、自分に対しての友情ゆえだろう。
 明人はしばらくの間黙りこくり、懸命に考えてくれている。
 微かに開いていた唇がきゅっと閉じられる。俯いて、その唇をかみしめて。次に視線を上げた時、明人はこくりと頷いた。
「……いい」
 まさか本当に頷いてくれるとは。
 優しい、優しい明人。
 これ以上自分を傷つけたくなくて、きっと本意でないはずなのに頷いてくれた。
 明人がやっぱりダメだと意見を翻す前に、 覚は素早く顔を寄せた。
どうしても彼に触れたかった。
 覚の腕が上がり、同じ高さにある明人の顔へと手を伸ばす。
 温かな頬。初めての感触なのだろう、隠しようもなく明人の身体が跳ねた。
 引き寄せながら自分からも近付いて、距離を縮めてゆく。
 息すらも触れる距離が我慢できなかったのか、明人は堪えきれないように目を閉じてしまう。
 ふわ、と。
 やわらかく、頼りない、ほんの僅かな感触。
 まるでママゴトのような、優しいキス。
 時間にすれば、ほんの一瞬。
 離れて、けれどもう一度触れずにはいられなかった。
 今度は先刻とは違って、唇を少し強く押し付ける。そして唇の上を、さらりと舐めて。それが舌だと分かっているだろうに、明人は動かないでいてくれた。
 唇を食むと、明人は唇を開いてきた。そんな彼の反応に、覚は行為をやめられなくなってしまう。すかさず舌を進入させるのに、それをも黙認して、明人はただひたすら身体を強張らせ続けた。
 舌の先同士が触れると、明人の身体がびくん、と震えた。
 ―――息が、できない。
 きっと明人もそうなのだろう。がちがちに身体を強張らせ、なのに拒絶は最後までされなかった。
 ここまでだ。
 もっと触れていたい気持ちをねじ伏せて、覚は唇を離した。往生際悪く、最後にもう一度だけ、そっと触れ、そうして名残惜しく、距離をとった。
「……ごめん、一回じゃ済まなかったな」
 小さくそう言うと、明人のきつく閉じられていた目が開いた。
「ありがとう、明……」
 泣くわけにはいかない。でもきっと、泣いているようにしか見えないだろう顔を前に、まるで自分自身が傷を負ったように、明人は眉根を寄せた。
 髪をかきあげ、伏せていた視線を上げて、覚はふわりと笑った。
 諦めと、ここまで付き合ってくれた明人への感謝を込めて。想いの丈を込めて、微笑んだ。

 ――――その笑顔を見て、明人はまるで言葉を奪われたかのように黙りこくった。




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